

フィリピン全体のフタバガキ林の四二%、蓄積量の五四%がこの島に集中、面積当たりの適材も、他のラワン主産地であるマレーシアのサバやインドネシアのカリマンタンなどに比べても、三、四倍も多い。
しかも、ラワン材の中で質の高い白ラワンが多く取れるとあって、日本の木材商社にとってはまさに宝の山だった。
だが、ミンダナオ島の上空を飛ぶと、眼下に広がる光景は、世界最大級の熱帯材の宝庫といわれたものとは、あまりにもかけ離れている。
森林と呼べる緑の広がりはほとんど見当たらない。
わずかに、谷の急斜面中高い山の尾根筋などに線状に残っているに過ぎない。
森林開発局の統計によると、フタバガキ科の生産林は約四八〇万ヘクタールあるが、その六五%までが伐採の跡地だ。
このミンダナオ島で伐り出されたラワン材の八割は、ここに殺到した日本の商社や木材会社などによって日本に運び込まれて合板にされ、戦災復旧時や高度成長期の建材や家具の主力となった。
そしてそれと引き換えに、この殺伐とした「荒廃の島」を残したのだ。
むろん、フィリピン政府もカインギン規制、造林の推進、木材加工の合理化などの森林保護の政策を打ち出してはいる。
七八年以降は国を挙げて造林に取り組み、同年以後は破壊面積を造林面積が上回るようになったと、森林開発局は発表している。
この造林運動の象徴となったのが、七七年六月九日に発令され九大統領布告第一一五三号。
一〇歳以上の国民に、心身障害者を除いてその後五年間にわたって毎月一本植林することを義務づけたものだ。
統計上は七八年以来毎年六万〜八万ヘクタールが植林されている。
だが現実には、国民皆植林運動の目に見える成果はなく、森林開発局長がしばしば「幽霊植林地」に警告を発したり、山火事で延焼するものもかなりあることから、この植林統計をそのまま信じる専門家はほとんどいない。
地球上の陸地面積が約一三〇億ヘクタール。
八〇〇〇年前に農業が始まる前、六一億ヘクタールの森林があったと推定される。
つまり、陸地の二分の一近くが緑に覆われていたのだ。
しかし、現在は、国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、約二八億ヘクタールの森林と約一二億ヘクタールの疎林しかない。
一九六〇年前後の統計をひっくり返してみると、森林面積は陸地の四分の一はあった。
それが、現在では五分の一になってしまったわけだ。
米国政府は、この破壊の速度を各国の資料や人工衛星写真の分析から年間一八〇〇万〜二〇〇〇万ヘクタールと推定、一方、FAOは年一九一〇万ヘクタールとみている。
いずれにせよ、世界で年間千数百万ヘクタールの森林が回復不能なまでに破壊されている。
UNEPとFAOの共同調査によると、アフリカでは毎年一三〇万ヘクタール、アジアでは一八〇万ヘクタール、中南米では四二〇万ヘクタールの熱帯雨林が姿を消している。
ただ、こうした統計に入っていない、半乾燥地の粗林の伐採はアフリカだけで年二三〇万ヘクタールもある。
このままでは、今世紀末には森林面積は六分の一以下になってしまうことは確実だ。
この破壊はたいした面積には見えないが、先進国では伐採面積と造林面積がほぼ均衡していて、破壊の大部分が発展途上国の熱帯林に集中しているところに、深刻な問題が潜んでいる。
億ヘクタールはあったと推定されるが、現在では多めに見ても九億ヘクタールほどしかなく、過去五〇年間に、中南米で三七%、アフリカで五二%、アジアで四二%が失われたという。
もしも一〇〇年前に人工衛星があって、南北両回帰線間に横たわる熱帯地方の写真を送ってきたら、地上はほぼ切れ目なくジャングルが覆っていたはずだ。
だが、現在ではいたるところがズタズタに切りさかれ、虫食い跡のように破壊が広がっている。
高さ一〇〇メートルにもなる樹木がすき間なく茂る熱帯林は、少しぐらいの破壊にはびくともしない安定した感じだが、実はがっかりするほどひよわな自然である。
熱帯林のことを「緑の砂漠」と呼ぶ生態学者もいるぐらいだ。
高温のために土壌中の有機物はすぐ分解してしまうので、土壌は貧弱で厚さは二、三センチもあれば上々。
土壌が浅いから根も浅く、五〇メートルもある巨木でも、根の深さは一メートルもない場合が多い。
森林はこの土を守っている要であり、何よりも「巨大なダム」である。
森林があれば、雨期の豪雨でも何層にも覆い被さった葉や枝が雨足をいなして、地上に達するときには水滴となっている。
幹や葉や根に膨大な水を溜め込み、少しずつ蒸発させていく。
いったん、森林が破壊されて姿を消すと、豪雨は表土をえぐり、傾斜でもあれば量と速度を増しながら地表を流れる水は、物理学の法則に従ってすさまじい破壊力となって大地を押し流していく。
それは、スウェーデンの研究者グループが、東アフリカのタンザニアで行った実験が雄弁に物語っている。
傾斜が三・五度の同じ面積の森林、草地、ミレット畑行ページ参照)、裸地のそれぞれの環境で、雨のあとどれぐらい土壌が流失するかを測定したものだ。
原生林の場合は、降った雨のうち流れ出しだのはわずか〇・四%で、流失した土壌はまったくなかった。
だが、これが畑になると雨の二六%が流れ出し、一ヘクタール当たり七八トンの土壌が流失した。
さらに、裸地ともなると、雨の五〇・四%がそのまま地表を流れ、一四六二トンもの土壌が失われた。
薄い土壌が洗い流されたあとは、熱帯特有の赤土(ラテライト)が露出して、乾期になれば容赦ない熱帯の日差しにさらされて固まり、植物もほとんど受けつけなくなる。
熱帯地方では、干乾しレンガの小屋をよく見かけるが、これはラテライトを水でこねて木枠に入れて干しただけのものだ。
つまり、表土を失った土地は雨期の雨でこねられ、乾期の太陽に干乾しになって一枚の広大なレンガをつくったようになってしまうのだ。
熱帯の植林地で、苗を植えようにも地面が石のように固くなって、鉄の棒さえはねかえしてしまう現場を何度も見たことがある。
サンパウロ大学がアマゾンで測定したところによると、熱帯雨林では降った雨の七四%までが樹木に吸収され、残り二四%がジャングル内の川に流れ込む。
樹木に吸収された水分は、また蒸発して雨となって降ってくる。
いわば、森林と大気との間で水のキャッチボールをしているのだ。
このような特殊な気候では、森林の破壊でキャッチャー役がいなくなると、雨が激減して一挙に乾燥化か進む。
アマゾン源流地帯のペルーでは、年間二六〇〇ミリもあった雨量が、熱帯林を広範囲に伐採した一帯では一五〇〇ミリに減ってしまい、乾燥化がじりじり進んでいる。
また、西アフリカの象牙海岸でも、大規模の伐採跡地の雨量は年間三〇〇ミリも減ってしまったことが、報告されている。
逆に、石油収入で海水を淡水化して、大々的な緑化を進めた中東のドバイやアフタビなどの一部地域では、大気中の湿度が上昇、平均気温が下がるとともに、何百年ぶりかで定期的に雨が降るようになった。
緑の重要性を何よりも物語るものだ。
世界の砂漠がほとんど熱帯や亜熱帯にあるのは偶然ではない。
人間の影響が実質的にまだ二〇〇年ほどしかない米国、オーストラリア、南アフリカなどでは、大地が荒廃していく過程が歴史的事実として記録されている。
米国のアリゾナ、ニューメキシコ州などの砂漠、オーストラリア中央部の砂漠、アフリカ南部のカラハリ砂漠。
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